モンディアルのイメージ

フェラーリらしさから外れたと評されたモデル

フェラーリ・モンディアルは1980年に登場し、ブランドの中ではやや異端とされる存在でした。4座のクーペまたはカブリオレという設計は、2シーターを基本とするフェラーリの中で異彩を放っていました。

それだけではありません。外観においても、ピニンファリーナが手掛けたものの、348などと比べて直線的でおとなしいと受け取られるデザインは、当時のフェラーリファンの間で賛否を呼びました。

エンジンはV8でありながらも、当初のモンディアル8では214psと控えめな出力で、1.4tを超える車重とのバランスに疑問が持たれました。そのため、加速性能や動力性能に物足りなさを感じるユーザーが一定数いたことも事実です。

こうした背景から、「フェラーリらしくない」との評価が定着し、コレクターズアイテムとしての地位を確立できないまま、市場での評価は低調に推移しました。

技術的には革新的な試みが詰まっていた

とはいえ、モンディアルが単なるフェラーリらしくない車で終わっていたわけではありません。むしろ、技術面では多くの革新的要素を備えた挑戦的なモデルでした。

たとえばモンディアルは、フェラーリ初の量産4座モデルとして本格的に4人乗車を可能にした点に注目すべきです。リアシートも実用性を確保し、ファミリー層や長距離ドライブを想定した使い方にも対応できるよう設計されていました。

また、電子制御の採用が進められたのもモンディアルからです。デジタル表示のインパネや、後期モデルにおける電子燃料噴射システムの導入は、フェラーリが技術革新に開かれたメーカーであることを示すものでした。

加えて、車体構造にも注目すべき点があります。モンディアルはスペースフレーム構造を採用し、車体剛性と安全性の向上に寄与していました。特にカブリオレ仕様では、この構造が開口部の大きさにもかかわらず、十分なボディ剛性を維持することに貢献しています。

1982年以降のモンディアルQV(クアトロバルボーレ)や1985年以降の3.2、さらには1989年のモンディアルTでは、エンジンの出力や搭載位置にも改良が加えられ、走行性能は初期型と比べて大きく向上しました。

現代で再評価される日常使いできるフェラーリ

近年になって、モンディアルはその独自性が再評価されつつあります。特に欧米では実用フェラーリとしての価値に注目が集まり、適度なサイズ感やメンテナンス性の高さ、そして控えめなデザインが好意的に捉えられるようになっています。

市場価格も、往年のV12モデルや限定生産車と比べて手頃であり、初めてのフェラーリとして選ばれることも増えています。加えて、3.2以降のモデルは信頼性も比較的高く、日常的な整備がしやすいことも好材料とされています。

なにより、モンディアルには飛び道具的な派手さはありませんが、フェラーリとしての本質──エンジンの吹け上がりの鋭さ、ステアリングフィールの正確さ、そして独特のエグゾーストノートはしっかりと継承されています。

また、フェラーリの中で唯一4座カブリオレという希少な存在であることも、今後の市場価値に影響を与える可能性があります。モンディアルTのカブリオレモデルは特に希少で、収集対象として注目するコレクターも増えつつあります。

フェラーリ・モンディアルは、華やかさや圧倒的な加速力こそ控えめかもしれませんが、バランスの取れた実用性と優れた設計思想を備えた、知る人ぞ知る一台です。時代に先駆けた選択肢として、今こそその価値が見直されるべきフェラーリといえるでしょう。