
ステアリングを握る前に感じる違い
フェラーリという車は、エンジン音やフォルムだけでなく、乗る前の段階からすでに他とは違う存在感を放っています。ステアリングに手を伸ばす前の段階で、ドライバーに対してある種の緊張感と高揚感を与える。それはデザインの妙だけではなく、車としての構えが根本的に異なることの現れです。
フェラーリの多くのモデルでは、ドライバーズシートに収まった瞬間に、車両全体がドライバー中心に設計されていることを感じ取れます。視界の確保、ペダル配置、ステアリングの角度やグリップ感。それらが直感的に身体と馴染むような仕立てになっているのです。
こうした設計思想は単なる操作性向上を目的としたものではありません。フェラーリにとってハンドリングとは、感性とマシンをつなぐ接点であり、ステアリング操作に対する反応だけでなく、路面からの情報や姿勢変化を明確に伝えるための手段でもあります。
走り出して初めてわかる一体感
実際に走り出すと、ステアリング操作の軽さと正確さに驚かされます。軽いといっても手応えがないわけではなく、入力に対して確実な反応が返ってくる。フロントタイヤがどれだけの角度で路面を捉えているかを、視覚ではなく手で理解できるような感覚があるのです。
フェラーリのハンドリングの特徴は、単なるクイックさや俊敏さにとどまりません。ステアリングが中立の状態にあるときでも車体の挙動が極めて安定しており、コーナリング中の姿勢変化が予測しやすいという特性があります。これは車両重心の設計、前後重量配分、そしてサスペンションジオメトリの最適化による成果といえるでしょう。
特にミッドシップモデルにおいては、車両の回頭性が非常に高く、低速コーナーでも狙ったラインにトレースしやすい構造がとられています。これにより、ドライバーはコントロールの主導権を握ったまま走行できるため、車を操る楽しさが強調されるのです。
一方で、FRレイアウトのモデルであっても同様の一体感が得られるよう設計されています。たとえば812スーパーファストのような大排気量FRモデルでも、後輪操舵機能を備えることで俊敏なターンインが可能となっており、車格を感じさせない軽快な動きが実現されています。
他ブランドと比較して見える哲学の違い
他のスポーツカーブランドと比べたとき、フェラーリのハンドリングには独特の濃度があります。たとえばドイツ系ブランドでは安定性やブレーキングの精度が重視される傾向がありますが、フェラーリはそれ以上に接地感や滑り出しの予兆といった微妙なニュアンスを伝えることに重点を置いています。
こうしたフィーリングは、単にシャシーやサスペンションのチューニングだけでは実現できません。ドライバビリティとエモーショナルな走行体験を両立させるために、エンジニアたちはテストドライバーの感覚も含めて設計に反映しています。つまり、数値的な正しさではなく、気持ちよさやリズムといった主観的な要素が尊重されているのです。
また、ハンドリング性能は電動化が進む中でも重視されており、SF90ストラダーレのようなハイブリッドモデルにおいてもその哲学は継承されています。重量物であるバッテリーの配置が最適化され、駆動方式が変わっても操縦感覚はフェラーリらしさを損なわないように保たれているのです。
フェラーリのハンドリングは、技術や構造の話にとどまりません。それは「走る」という行為に美学を持ち込んだ結果として生まれた、一種の芸術的表現ともいえる存在です。ハンドルを切ったとき、ただ車が動くだけでなく、自分自身が操縦者であることを強く実感させてくれるのがフェラーリというブランドの真骨頂なのです。